いま、なぜ、「希少植物を域外(自生地外)で保全すること」と「その保全された植物を管理するためのネットワークシステム」が必要なのでしょうか?
現在、絶滅のおそれのある植物や個体数を減少させ続けている植物を保全するためには、様々な問題を抱えています。例えば、植物の自生地では、環境破壊、シカの食害、外来種との交雑などの複合した要因により、希少植物の個体数を維持することが困難になってきています。また、希少植物、絶滅危惧植物を保全する役割を担っている植物園もそれ自体が閉鎖され、希少野生植物は消失の危機にあります。そのため、いったん、希少植物、絶滅危惧植物を自生地以外(域外)に避難させ、保全することで個体数を回復させていく必要があります。
ただし、その植物がどの場所から避難させ、どの場所で保全されているのか等の情報がなければ、自生地以外の場所でその植物の個体数を増やすことができたとしても、最終的に再度自生地へ植え戻すことが困難になります。 しかし、現状は、希少植物や絶滅危惧植物を保全している植物園があったとしても、その植物が、もともとどの場所に自生していたものか(産地情報)、どのような経路でその植物園までやってきたのか(分譲履歴)、また、遺伝子型はどうなっているか(遺伝情報)の情報を持っている植物園はほとんどありません。
そのため、このプロジェクトでは、数種の希少植物、絶滅危惧植物を研究対象とし、自生地以外での保全し(域外保全)、植物の遺伝情報や産地情報の明らかにし、その情報を維持管理していくためのネットワークシステムを構築し、最終的にはその植物を自生地へ植え戻すこと(野生復帰)を実践するために、普遍的な仕組みを作ることを目標としています。
このプロジェクトは、環境省の環境研究総合推進費で実施している研究課題です。
生育地の外で栽培されている植物の「氏素性」を把握しておくことは大切です。
絶滅危惧種は植物園を初めとする様々な場所で、人の管理下で守られていることが多くあります。ここで大切になってくるのが、栽培している植物が「どこの産地由来」で「いつ、どの園の誰から分けて貰って」「いつ栽培を始めたのか」という履歴をしっかりと維持することです。このような情報は、これまでには植物園の「生き字引」のような方が覚えていたり、紙ベースの台帳に書かれていたり、あるいは植木鉢のラベルに書いてあったかも知れません。しかし、もし、生き字引のような職員さんが定年退職してしまったら、そのあとはどうなるのでしょう?いま日本では、団塊世代の方たちが定年を迎えています。こうした特定の人に依存した(難しい言葉で、属人化と言います)しくみでは、いつかは情報が失われ、植物の「氏素性」がわからなくなります。そうすると、せっかくの絶滅危惧種の個体を野生に復帰させたりすることが難しくなります。なぜならば、芽生えた場所から動くことが出来ない植物は、その土地の環境に適した反応をするように、小さな進化を積み重ねていることが多くあるからです。
私たちは、みんなが簡単に情報管理をするしくみを作りたいと思いました。こうしたときに、欧米の機関が良く利用しているのがバーコード管理です。実は経済活動においては、私たちの周りでも普通に使われていることは言うまでもありません。コンビニやスーパーのレジ、飛行機の搭乗券、飲食店の割引券、み~んなバーコード(QRコードも含む)が使われています。それならば、植物の保全のしくみでも使わない手はありません。特別な能力を持った人に頼る属人化システムから、みんなが簡単に共有できる情報管理へ、今この時期だからこそ進めるべきではないでしょうか。